人魚姫(Die kleine Merrjungfrau、The Little Mermaid)  2007年7月1日  ハンブルク初演A

 ジョン・ノイマイヤーによるバレエ
       ー ハンス・クリスティアン・アンデルセンから自由に発想して

音楽  レーラ・アウエルバッハ 振付・演出・舞台美術
衣裳・照明設計
 ジョン・ノイマイヤー
指揮  クラウスペーター・ザイベル オーケストラ
ソロ・ヴァイオリン
テレミン
 フィルハーモニカー・ハンブルク
 アントン・バラコフスキー
 リディア・カヴィーナ


詩人 ロイド・リギンズ
人魚姫/詩人によって創造されたもの シルヴィア・アッツォーニ
エドヴァルド/王子 カーステン・ユング
ヘンリエッテ/王女 エレーヌ・ブシェー
海の魔法使い オットー・ブベニチェク


第1部
第1場 プロローグ:船の上で
詩人、ヘンリエッテ、エドヴァルド
結婚式の客  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、チェルシー・ウィンター
ジョゼフ・エイトケン、アントン・アレクサンドロフ、ベン・シトリット、ヨハン・ステグリ、コンスタンティン・ツェリコフ

第2場 海の底
詩人、人魚姫、ヘンリエッテ、エドヴァルド
魔法の影 
(人魚姫の持ち上げ役)
ピーター・ディングル、ステファノ・パルミジャーノ、セバスティアン・ティル
人魚姫の姉たち  アーニャ・ベーレント、マリッサ・ヒメネス、アンナ・ラウデーレ、ステファニー・ミンラー、ディナ・ツァリポヴァ
  ステラ・カナトゥーリ、イリーナ・クロウグリコヴァ、ユン・スー・パーク、アンナ・Rabsztyn、パトリシア・ティッツィー、ミリアナ・Vracaric、マリアナ・ザナットー
シルヴァーノ・バロン、オーカン・ダン、ウラディミル・ハイリアン、マティアス・イアコニアンニ、パーシヴァル・パークス、エドウィン・レヴァツォフ、ジョエル・スモール

第3場 船の甲板で
詩人、王子
上級船員  ジョゼフ・エイトキン、アントン・アレクサンドロフ、ベン・シトリット、ヨハン・ステグリ、コンスタンティン・ツェリコフ
船員  アントナン・コメスタッツ、エミル・ファスフットディノフ、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、キラン・ウェスト

第4場 海中で
詩人、人魚姫、王子、海

第5場 嵐
詩人、人魚姫、王子、海の魔法使い、上級船員、船員、魔法の影、海

第6場 嵐の後の静けさ
詩人、人魚姫、王子、海

第7場 海岸にて - 教会のそば
王子、王女、詩人、人魚姫
王女のクラスメート  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、チェルシー・ウィンター
修道女  スカイ・ハリソン、パトリシア・ティッツィ

第8場 海底
詩人、人魚姫

第9場 変身
詩人、人魚姫、海の魔法使い、魔法の影

第10場 海岸にて
詩人、人魚姫、王子

第11場 船の甲板で
詩人、人魚姫、王子、王女、上級船員、魔法の影
船の乗客  カロリーナ・アゲーロ、クシャ・アレクシ、ジョージーナ・ブロードハースト、スカイ・ハリソン、ステラ・カナトゥーリ、ルチア・ソラーリ、パトリシア・ティッツィ
シルヴァーノ・バロン、エミル・ファスフットディノフ、ウラディミル・ハイリアン、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、エドウィン・レヴァツォフ、キラン・ウェスト
ステュワード  ジョエル・スモール、Grischa Olizeg、ダニエル・ヴェーダー、フロリアン・ポール

第2幕
第12場 人魚姫の船室
人魚姫

第13場 王女の宮殿
詩人、人魚姫、王子、王女、海の魔法使い、魔法の影、上級船員、人魚姫の姉たち、海
結婚式の客  カロリーナ・アゲーロ、クシャ・アレクシ、ジョージーナ・ブロードハースト、スカイ・ハリソン、ステラ・カナトゥーリ、ルチア・ソラーリ、パトリシア・ティッツィ
シルヴァーノ・バロン、オーカン・ダン、エミル・ファスフットディノフ、ウラディミル・ハイリアン、ヤロスラフ・イヴァネンコ、草野洋介、エドウィン・レヴァツフ
花嫁の付き添い  カロリーナ・マンクーソ、大石裕香、リサ・トッド、アンナ・レナ・ヴィーク、チェルシー・ウィンター

第14場 エピローグ:もうひとつの世界
詩人、彼によって創造されたもの(人魚姫)


jade さんから感想をお寄せいただきました(2007年8月29日)。どうもありがとうございました。
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「人魚姫」はバレエにふさわしくないテーマだ。
だってヒロインの下半身は魚なのだから。足を酷い試練と引き替えに得た後も自由な動きができない、という設定。
ノイマイヤーがバレリーナをどのように踊らせるのかとても興味があった。

(第1幕)
深いブルーの幕が舞台にかかっている。
透けているのだが白いうねるような曲線(チューブ)が舞台の空間を横切っている。
後からわかったが、これが上下して水面の役割をするのだ。

幕が開き舞台の奥上にはロイド・リギンス演じるアンデルセンが背中を向けている。
手元の手帳を見つめている。
彼の後ろを花嫁とブライドメイト達が笑いながら駆け抜ける。今日の花婿はアンデルセンの親友。
密かに親友に恋をしていた彼は手すりにもたれ哀しみの涙を流す。涙は海へ落ちていく。その涙を追い彼も海中に落ちていく。
水面を表わす曲線は上へあがっていく。
海底は人魚姫の棲む国。

シルヴィアの人魚は舞台の海を美しく泳いだ。
さまざまな青が混じり虹色に光る生地でできた長袴が尾ひれのように見える衣装。 上半身は細い錦帯がぐるぐる巻かれたように見えるビスチェ。
人魚を自由に泳がせてるのは黒子の三人の男性ダンサー。
素肌に黒い短い羽織に黒の袴。頭には覆面のようなかぶり物。
三人が彼女の脚と腰と、そして長い尾ひれを支えてリフトをして操るのだが、上半身をいつも反らせ優雅に腕をくねらせる。
このポーズ、本当はすごく身体に負担がかかるのではないかな。彼女の身体能力の高さがなければできない。

足を与える海の魔王(オットー・ブベニチェク)も白塗りの坊主頭に隈取りのメイク。身体中には稲妻のような刺青。袴の腰脇のスリットから太腿の刺青が見え隠れするのよね。それがとてもセクシー。

ロイド・リギンスが演じるのは詩人・アンデルセンだが、アンデルセンが同性愛嗜好があり親友に恋をしていたというのは実話らしい。
又非常に容貌にコンプレックスがあり美しいものが絶対に善であるという考えを持った人だというのも本当。(アンデルセン役のロイドは美しすぎる!)
そのあたりも踏まえての作品つくりなのか、人魚姫とアンデルセンが恋する男は誰でも好感を持つ優しくて明るくてハンサムな若者なのだ!
唯一の欠点はきっと趣味のゴルフ。これはカースティン・ユングが好演。彼は本当によく踊れるしチャーミングなダンサー。
明るい笑顔を見るだけでこちらまでなごむ。

船上でゴルフを楽しんでいた若者が落ちたゴルフボールを拾いに海に飛び込みおぼれて人魚姫に助けられ、彼女は恋に落ちるのだ。
おいおい、ゴルフって何?ノイマイヤー先生に聞いてみたいぞ。なぜゴルフ? 船から落ちる為!?謎の設定だ。

助けた彼と人魚姫が海底で踊るシーンがとても美しい。
黒子たちが消えてアンデルセンが入り男2女1のパ・ド・トロワ。
アンデルセンの思いはいつも一方通行。人魚姫と王子はつかの間の恋人のように踊る。

人魚姫は彼を助け岸辺へ。そこへ修道女に連れられた灰色の制服を着た女子学生の団体がくる。その中の一人の少女が若者に興味をもち助ける。好奇心たっぷりの仕草、愛らしい笑顔。エレーヌ・ブシェーがとてもかわいい。
エレーヌは昨年ハンブルクで見たジュリエットの時よりもさらに自信がついたようだ。
清楚で美しい容姿、細く伸びやかな肢体、ヘザー引退後の次のスターは彼女だね!
彼女に一目惚れする若者を哀しげに見送るアンデルセンと人魚姫。

魔王に人間にして欲しいと懇願するが思いの深さを試すように海に棲むもの達が彼女を翻弄する。最後まで決意を曲げなかった彼女に足を与える儀式をするが、ある意味公然のレイプではないかと思うほど辛いシーン。彼らは人魚姫の青い袴をはぎ上半身に巻いた帯をほどき、最後に二本の足にまとわりつく青い鱗のタイツを剥ぎとる。声のない悲鳴!!

でも、これでようやくあの女学生の着ていた制服を着ることができるのだ… がたがたと震えながらも服を手に安堵する表情を見せる。
そして服はアンデルセンの身体にもあてがわれる。そうなのだ、彼も人魚姫と同じ若者に愛される少女になりたかったのだ。
リギンスってこういう時の気持をもてあましてるせつない表情が似合いますね。
歩行の辛さでのた打ち回りながら海岸に倒れているところを若者に助けられる。

人魚姫は人ではないものなので、はっきり言って醜い。白塗りで青い隈取のような線。額には小さい貝殻がついている。
あんなに優雅に泳いでいた彼女は陸に上がればお猿さんのような存在になる。
人魚姫はけなげな眼差しで若者を追うが、大切に扱われたが彼女は決してレディとしては接してもらえないのだ。与えられたのは水兵服とあの制服だ。
親友としてしか見てもらえないアンデルセン。彼らはますますシンクロした動きになっていく。
 
(第2幕)
冒頭の場面。
真っ暗な舞台にある2メートル強の四角い白い部屋にグレーの制服を着た人魚姫が椅子に茫然と腰掛けている。
部屋といっても錯覚を利用していてまるで額縁の中に彼女を閉じ込めているようだ。
彼女が動きだすまでは一枚の大きなモノクローム写真がおいてあるのかと思ったくらい。

壁が迫る狭い部屋で人魚姫は狂ったように暴れる。
あんなに自由に海の中を泳いでいたのに!!なぜ、ここにいるの!?愛されてもいないのに!と叫んでいるみたい。
シルヴィアの小さな身体がいたいたしい。
アンデルセンが部屋の奥から登場してくる。
彼だけが彼女を優しくいたわる。なぜなら彼女は自分自身の投影だからだ。

若者(王子)と彼を海辺で助けた少女(王女)の出会う船上パーティー。
彼女はようやく歩けるようになったが、相変わらず若者のペットのような存在。
水兵たちとお揃いのセーラー服を着させられて、コミカルな踊りを踊らされる。
彼はそんな彼女を可愛がる。
このシーンもとても美しい色彩。白い制服。カナリア色、グリーン、黒、水色、麻のスーツと様々なサマードレスのダンサーがジャジーな曲で楽しそうに踊る。
王女のエレーヌが登場するが、彼女は背中を見せたガーベラピンクのパンツスーツ。甘い花の色の彼女に皆の視線が集まる。制服から美しい淑女へと変身を遂げている彼女に熱い視線を送り求愛する王子。
優雅に踊る二人を目の前にして、コミカルな踊りを望まれ答えなければならない人魚姫。絶望がつのる。
アンデルセンはそんな彼女を見つめるしかできない。彼もまた若者からは親友として肩を抱いてもらうしかないのだから…

若者(王子)が王女との結婚式。
人魚姫は王女のブライドメイトをしなければならない!
赤いブライドメイドのお揃いのドレスを着てベールを他の娘たちと捧げ持つが、どうしても引っ張ったりして邪魔をしてしまう。
王子に纏わりつく人魚姫に冷たい視線を浴びせる王女。
人魚姫は少しの望みをかけて、王子と海底で出合った時に一緒に耳を傾けた大きな貝殻を贈る。
その時に感じた愛を思い出してもらおうとするが、彼は部下からプレゼントされたゴルフのアイアンに夢中。
貝殻を粗末に扱い王女に渡す。王女もいやそうに他の友人へ・・・・人魚姫の思いは届かない。

披露パーティが始まった。
ノイマイヤーお得意のロングドレス、タキシード満載のダンスシーン。
彼の振付けた『椿姫』『シルヴィア』、また記憶に新しい2006年のニューイヤーコンサートなどワルツなど。
ダンサーが流れるように踊る。ここの衣装も美しかった。( 確かにsachikomさんの書かれたように人数が多くすっきりしてなかったかも)

そこへ仮装をした大道芸人のような一群が登場!
海に棲むはずの人魚姫の姉や仲間達が駆けつけてきたのだ。
海の魔王が彼女にナイフを渡し煽るように踊る。
ここは人魚姫の童話と同じ。
「もしも王子を殺せば、その血を浴びた足は元の魚に戻り海の家に帰ることができる」と教える。
恐れおののく人魚姫。

客が全て帰った。若者は皆から贈られたゴルフのクラブが嬉しくて練習をしている。
人魚姫はおそるおそる彼に近付いていく。しかし、ナイフを落とし気づかれてしまうが彼にとっては冗談としか思えない。
わざと刺されるふりをしてはしゃぐ。
ふと訪れた沈黙。彼女は海の底で感じた愛を取り戻そうと最後のチャンスにかける。
しかし、彼はコミカルなダンスを彼女に望み、それに応じる彼女。それを満足そうに見やってから花嫁が待つ部屋へと消えていった。

最後まで振り向いてもらえない。一人残される人魚姫。
絶望感に叩きのめされる。赤いドレスはもういらない!すべてを自ら脱ぎすてる。

舞台は暗くなり満点の星が輝く。海に星空が映るとまるで宇宙に浮かんでいるようだ。
彼女はそこに一人佇む。背後からアンデルセンが登場し、シンクロしたゆるやかなダンスを踊る。
アンデルセンと人魚姫は一途に愛した者から同価値の愛情を得ることはなかった。そんな二人がお互いを確認し慈しむような動きはだんだん力強さを見せる。
最後に上を見上げ星空に中に立つ二人には悲しみは見えない。
暗転。
と、そんな感じでした・・・・
踊りの説明は無しですがお許しを。ともかく主人公が踊る場面が少ないのです。ただそれを補うような群舞もたくさんあり堪能しました。
音楽が現代音楽なのでなんと説明してよいかわからないけど。お囃子のような日本風の旋律がはいったり、ラグタイム風な曲があったり、いろいろなもののミックスで面白かったのだが、今になっては印象に残る旋律がないのです・・・・。
テルミンは海底のシーンで使われていたように思う。人外境を表わすにはテルミンのウィ〜ンともつかない浮遊感と悲哀を帯びた音は似合ってました。

ともかくシルヴィア・アッツォーニに感動!!この人がいてこその「人魚姫」だろうな。セカンドキャストが浮かばない。又見てみたい。
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